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10月20日「生命力の移動 – ボードレールと分人主義」を開催しました



 2015年10月20日(火)16時40分〜18時10分、外大7号館701教室にて、フランス語学科主催ワールドリベラルアーツセンター共催の講演会が開催されました。講演者は平野啓一郎氏で、タイトルは「生命力の移動 – ボードレールと分人主義」でした。平野啓一郎氏は、言うまでもなく著名な作家で、京都大学法学部在学中の1998年に文芸誌『新潮』に発表したデビュー作『日蝕』で第120回芥川賞を受賞し、三島由紀夫の再来と大きな話題になりました。平野氏は蒲郡市のお生まれで、愛知県とも深い関わりがあります。

平野 啓一郎 氏

 当日大学に到着した平野氏はジーンズに黒いTシャツ、黒いジャケットという装いで、芥川賞受賞時の時に茶髪にピアスと騒がれた時から、17年経った今でも風貌に変わりありません。ロックTシャツのように見えるTシャツは、よく見るとエドガー・アラン・ポーの「大鴉」をモチーフにしたデザインでした。ポーの仏訳者でもあったボードレールへの目配せが感じられました。
 講演に先立って亀山郁夫学長が挨拶され、平野氏の長編小説『決壊』について最近書かれたばかりのエッセーを朗読されました。平野氏もこの挨拶を予想していなかったようで、学校を挙げての受け入れに感謝し、講演にも一層熱がこもった様子でした。
 講演で平野氏は、ボードレールが1855年に書いた第一回パリ万国博覧会の美術評の総論の部分に現れる「生命力の移動」という概念を取り上げました。平野氏がボードレールに出会ったのは北九州時代に岩波文庫版『悪の華』(鈴木信太郎訳)からで、京都大学入学後に、当時出ていた人文書院版の4巻の全集を古書店で入手し、4巻目に収められた美術論に大変惹かれたということでした。

会場の様子

 ボードレールは、万博の美術展会場で、古代ギリシャやローマの文明が滅び、イギリスやフランスで新たな近代文明が花開いているのを目にし、かつては遠方の土地で花開いた美の「生命力の移動」を語っています。平野氏は昨今の企業の移り変わり、かつて花形だった、ソニーやシャープといった日本を代表する企業が衰退し、アップルやグーグルといった全く別の企業が繁栄しているという現状を、この「生命力の移動」という現象になぞらえました。そのような不安定な時代に、自らの提唱する「分人」の考え方(詳しくは平野啓一郎著『私とは何か--「個人」から「分人」へ』講談社現代新書を参照してください)、すなわち、「個人」としての一貫性にこだわりすぎるのではなく、他者との関わりを通じて自分を変化させることを肯定的に捉え、様々な人との関わりを通じて変わる自分を受け入れ、自分が自分らしくいられる人とのつながりを大切にすることをアドバイスされました。
  聴衆を意識し、平野氏は作家としてよりも人生の先輩として、誠実に学生の皆さんに語りかけていました。ロマン主義や象徴主義のフランス文学にはまだそれほどなじみのない学生、平野さんの作品をまだ読んだことのない学生も、難解な純文学の作家と言うイメージを良い意味で裏切る、気さくで飾らない彼の人柄に触れられた時間でした。就職活動や人間関係に悩む時期の学生さん達は、平野さんの「分人」の考え方に大きく共感したことが講演後のアンケートからも伺えました。
 平野氏は講演会後の食事会にも参加され、学長を始め多くの教員達と気軽に文学や人生について話をされました。翌日はご友人の横尾忠則氏の高松宮殿下記念世界文化賞の明治記念館での受賞式典に招待されているそうで、多忙の中、名古屋まで赴き、大学のために多くの時間を費やしてくださった平野氏の、人柄と日常生活に触れられた貴重で濃密な一日でした。

概要

開 催 主 催: 名古屋外国語大学フランス語学科
共 催: 名古屋外国語大学ワールドリベラルアーツセンター
期 日 2015年10月20日(火)16:40~18:10
会 場 名 称: 701教室≪名古屋外国語大学7号館 地下1階 大講義室≫
所在地: 〒470-0197 愛知県日進市岩崎町竹ノ山57
会場へのアクセスについて(専用バス・シャトルバスの時刻表もご確認いただけます。)