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佐藤都喜子教授



JICA国際協力感謝賞を受賞して
現代国際学部 国際教養学科 佐藤都喜子教授
2014年10月、JICA国際協力感謝賞を受賞された、現代国際学部 佐藤都喜子先生にお話しをうかがいました。

22年過ごした国際協力機構(JICA)から、突然のメールが…

2014年の9月のある日、国際協力機構(JICA)から突然「JICA国際協力感謝賞を授与したいので、ついては10月の表彰式に参加できるかどうか伺いたい」とのメールが届いた。

実は私は、1989年から2012年まで、22年以上に渡り技術職である「国際協力専門員」として国際協力機構(JICA)に勤務していた。JICAの事業は、多種多様な専門性と様々な事務的業務の組み合わせで成り立っており、たとえ「小さな」と思われる活動であっても多くの方の頭脳と手足の力学が働き、一人ゲームなどは考えられない。そんな中で届いた私への感謝状授与のメールであった。当初迷ったが、今まで様々な方々からの支援を得て業務に携わって来た私が、国際協力事業に貢献した多くの方々を代表する一人として感謝されるのだと思い直し、素直にその賞をいただくことにした。

受賞するきっかけとなった活動の内容

プライマリーヘルスケアセンターの開所式

JICA時代は国内外の業務に携わったが、そのうちケニアに4年半、次に赴任したヨルダンには12年間滞在した。その間、母子保健・家族計画を中心とした女性の健康向上をめざしたプロジェクトのリーダーとして、母子保健・家族計画、住民への啓発、教材制作、収入創出/マイクロクレジットといったような専門性を持った方々とチームを組んでプロジェクトを推進した。
途上国では先進国以上に都会と地方の地域格差が顕著である。私が関係した保健医療分野においても地方に住む住民は、
  1. 医療施設を利用したくても、施設が自分たちの村落からあまりに離れており利用が困難である。
  2. 保健医療に関する知識が乏しく、病気に罹患しやすい。
という問題を抱えており、これらを改善することが重要と考えられていた。
しかし、最初に赴任したケニアで地方に足を踏み入れてみると、女性の健康を改善するには、医療施設の充実や保健医療の知識の向上だけでは十分でないということが明らかとなった。すなわち、女性自身が自分の健康より家族のニーズを最優先する考え方を持っていることや、家庭内で意思決定権を持っていないためにもう子供を産みたくないと思っても産まなくてはならない状況があることが判明した。このことから、女性自身の意識高揚の必要性を強く感じ、プロジェクトに「女性のエンパワメント」という概念を導入した。エンパワメントとは、字義通りに訳すと「力を持つこと」となる。「女性のエンパワメント」とは、すなわち「女性が欲しい情報を入手でき、それを基に自分で意思決定をして、健康を含めた自身の生活のコントロールができるような力を持つこと」を言う。そのような力をつけてもらうために、プロジェクトでは主要路線の活動に加えて、男女住民を対象としたジェンダー(男女の社会・文化的差異)に関する啓発活動や女性を対象に収入創出活動などを実施した。

当初はJICA本部担当部署の理解を得るのが難しかったが、保健医療の活動に「女性のエンパワメント」の視点を組み入れる必要性を現場で確信した私はひるまず活動を推進した。幸いにも、成果が徐々に現れるにしたがって活動の意義も理解されるようになった。そして、結果的に大きな成果を残し、プロジェクトは注目されるに至った。ケニアの活動は日本の英語の教科書に載ったり、NHK衛星放送で1時間半にわたって放映された。またケニアでの経験を踏まえて実施されたヨルダンのプロジェクトは2004年に事業部門で第1回JICA理事長賞、さらに2012年に同じく事業部門で第8回JICA理事長賞を受賞した。

プロジェクトが支援したナジャの山羊飼育

国際協力事業の経験と本学授業との関連

今や国際協力・開発関係の本はたくさん出版されている。これらから理論を学ぶことは基礎力をつける上で重要である。しかし、本学授業においては、このような基礎力に加えて、固定概念で物事をとらえるのではなく、地域に根付いた問題の真髄を理解し、その問題解決に取り組めるような応用力も発揮できる社会人になってもらいたいと願っている。そのために、先に述べたような自身のJICAでの現場経験をフル活用して、現場のもつ個性や特異性に気付く観察力と洞察力、さらには問題解決を導く上で必要とする想像力/創造力、判断力、それに行動力が身につく授業を心がけている。

今後の活動予定

村の片隅にテントを張って暮らすシリア難民

大学の春休みと夏休みの年2回は古巣のヨルダンでJICA業務に携わる機会を得ている。現在係わっているのはシリアからヨルダンに流入したシリア難民支援である。ヨルダンには、ヨルダン人のコミュニティーの片隅にテントを張って居住したり、雇用は違法にもかかわらず季節労働者としてプランテーションで働き、その仕事が終わると次の季節労働を求めてヨルダン各地を転々とするシリア難民家族が数多くいる。彼らの生活は困窮を極めており、本当に胸が痛む。したがって、今後も引き続き、このようなシリア難民の方たちに手を差し伸べる活動に係わっていきたいと切に願っている。