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Napre原稿『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』をめぐって


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名外大フランス語学科講演会
2018年11月8日(13時20分〜14時50分、於701教室)
『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』をめぐって
オリヴィエ・ゲーズ(作家)+西里扶甬子(ジャーナリスト)


 ここ数年来、毎年秋にフランス大使館の主催する『読書の秋』の全国イベントの一環として、本学をフランスの旬の作家が訪れることが恒例化しています。今年は2017年に『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』という小説で権威あるルノド賞を受賞したばかりの若手作家オリビエ・ゲーズ氏がやってきました。
 ゲーズ氏はストラスブール政治学院で政治学の学位を取得後、ジャーナリストしてヨーロッパの主要な新聞に寄稿しながら、彼自身が「戦後ヨーロッパ三部作」とよぶ連作に取りかかりました。まず始めに一冊の小説『ジャック・カスカスの革命』(未訳)をフランスで出版し、次にドイツで映画「アイヒマンを追え、ナチスが最も恐れた男」の脚本を共同執筆します、その後フランスの出版社から『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』(日本語版、東京創元社)を4年の調査の末に刊行しました。
 ヨーゼフ・メンゲレの名はヨーロッパや南米ではナチスの残虐さと結びついています。彼は、アウシュビッツで親衛隊の医師として人体実験を行った後、戦争終了後は南米アルゼンチンに逃亡し、裁判にかけられることもなく、1979年に最後に住んだブラジルで海水浴中に死亡しています。ヨーロッパと南米の暗部を描き出す彼の小説は、歴史のタブーに挑む意欲作でした。講演会でも、フランス人としてよりも、ヨーロッパ人としてこの物語を書きたかったと語っていました。
 ゲーズ氏が自作について語った後、日本のアウシュビッツと呼ばれるハルビンでの731部隊を一貫して取材してきた西里氏との対談となりました。731部隊の石井医師とメンゲレとはしばしば比較される関係にあり、両者とも戦後、裁かれることなく隠れて生き伸びました。ゲーズ氏によると、メンゲレはナチスに入る際にも、ただ医師としての名声を人体実験から得体という理由のために入ったのが実情だと語っていました。彼はアイヒマンのモサドによる逮捕とイスラエルでの死刑の後、つねに自分がいつか逮捕されるのではという恐怖の中を生きました。西里氏の情報では、石井医師は終戦後の米国による放免を経て、東京で密かに暮らし、晩年にはキリスト教に入信し、没しています。
 講演会後はサイン会となり、多くの学生や一般の方々が小説本を買い求めサインをもらっていました。その後は散歩が好きだというゲーズ氏と大学内と周辺を歩きながら、皆で日進の自然と紅葉を堪能しました。パリから来たゲーズ氏は日本の蜘蛛が大きいのに驚いていました。この後は、南米各地を本のプロモーションのために回るそうです。アンケートでは学生たちの反応もよく、フランス語を学び、ヨーロッパや世界のことを知るいい刺激になったと思います。フランス大使館およびアリアンス・フランセーズ愛知フランス協会との協力関係を維持し、今後もこのようなイベントを本学で催していくべきだという思いを強くしました。
(文責:伊藤達也)

Olivier Guez

西里扶甬子