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第4講 日本語をフランス語にしてみよう  表現の仕方の共通点と相違点を確認する


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1.「いただきます」と bon appétit !

フランス人の家の夕食に招待され、テーブルについて、ワインがつがれ、前菜が運ばれ、着席している人達が食事を始めようとする瞬間に、手を合わせて「いただきます」と言おうとして、それに当たるフランス語がないのに気づき、静かに食事を始めなければならなかった経験をしたことはないでしょうか?

中国人の知り合いに、食事を始める時に何か言葉を発しないか、と質問しても、同じアジアでも中国にはそういう習慣はないようで、「別に決まった言葉はない」と言い返されてしまう。無理して何か言うなら、「たっぷり食べなさい」と言うくらいだね、と言われる。

逆の経験とでも言えるでしょうか。フランスのレストランでこちらがフランス語を話す日本人だと知った給仕が寄ってきて、別のテーブルの日本人にサービスをしようと、 bon appétit ! は日本語で何というのか? と聞いてきたことがありました。 bon appétit ! は直訳すれば、「良い食欲を!」で、このままの表現では日本語では耳慣れない言い回しだが、フランスでは食事の前によく聞かれる言葉です。

それならば、「いただきます」が bon appétit ! と同じかと思うと、そう単純にはいかない。「いただきます」は食べる人が食事を作ってくれた人、あるいは自然の恵みに感謝する言葉であるのに対し、 bon appétit ! はこれから食事を始めようとする人に言う言葉です。「食欲が湧いて、おいしく食べられますように」という挨拶なのです。

このような違いを考慮した上で、給仕には、とっさに「日本語で bon appétit ! はメシアガレだよ」、と教えました。 2,3 度練習した後に、別のテーブルの日本人に、「メシアガレ」と言っているらしいのが遠目に見えました。日本人はきょとんとした顔をしていた。レストランの給仕がお客に言うのだから、「オメシアガリクダサイ」くらいにしておけば良かったと思っても後の祭りでした。

2.「知る」と connaître/savoir

「いただきます」のように、日本語には言葉があるのにフランス語(や他の言語)でその等価がない場合に翻訳というプロセス自体が成り立たちませんが、日本語で一語で表現するところをフランス語では2つ以上の別の言葉にしなければならない場合もあります。これはフランス語を日本語にする時には問題にならないけれども、日本語をベースにフランス語を作るときは厄介です。例えば「知る」という言葉をとりあげてみましょう。

「彼を知っている」という場合、フランス語では、 Je le connais と connaître を使います。それに対し、モンテーニュの有名な警句「私は何を知っているのだろうか ? 」では、 Que sais-je? と savoir を使っています。そもそも、 Je le sais と言った場合、 le が物を指す解釈が自然であり、日本語では、「私はそれを知っている」となります。それなら、 connaître は人を目的語に、 savoir は物を目的語に取る点に違いがあるのかと考えると、事情はもう少し複雑です。 Je ne le connaissais pas と半過去にした場合、 le の指し示す対象は人である必然性はなくなり、物であっても良くなります。 Je ne le savais pas という言い方も可能で、両方とも日本語では「私、それ、知らなかった」という意味になります。
辞書ではこの二つの動詞の使い分けをどう表現しているのでしょうか? 仏仏辞典の定義を見てみましょう。

connaître
(1) avoir une idée plus ou moins juste, savoir de façon plus ou moins précise. (多かれ少なかれ正当なアイデアを持つこと、多かれ少なかれ正確な仕方で知ること)
(2)être renseigné sur l'existence et la valeur de quelque chose ou de quelqu'un. (何かあるいは誰かの存在または価値を教えられること)
(3)avoir acquis des connaissances et de la pratique dans un domaine quelconque. (ある領域で知識および実践を獲得すること)

savoir
(1) être instruit dans quelque chose, posséder un métier, être capable d'une activité dont on a la pratique. (何かの学識を得ること、職業を持つこと、実践を行う活動ができること)
(2)avoir le pouvoir, le talent, le moyen. (力、能力、手段を得ること)
(3)avoir de la mémoire, de manière à pouvoir répéter. (繰り返すことのできるやり方、記憶を持つこと)
(4)être informé de quelque chose. (何かについて情報をえること)
(5)prévoir. (予告すること)

あなたと知り合えてうれしいという場合、 je suis heureux de vous connaître と言わなければならず、 * je suis heureux de vous savoir はおかしい。 connaître は「相手の存在を教えられること」であって、このような意味の場合は savoir は使えないからです。定義から見ていくと、 connaître は知る対象が外にあること、それに対し、 savoir では知る対象が内部に取り込まれることが相違点であるようです。この違いに気づくと、 savoir の持つ「できる」に近い意味、 je sais nager (私は泳ぐことができる)が泳ぐ技術を内に取り込み、能力として実践的に運用することができるというつながりで理解することもできる。人を目的語とする時に、 connaître が好まれるのは、人は主体の外部に存在し、用意に内部化できないことと関係があるでしょう。

3.「いくつか」と plusieurs /quelques

日本人の陥りやすいフランス語の錯誤も日本語をフランス語にする時の難しさをよく表します。

日本語では量の確かでない数を表す言葉が豊富ではありません。「 CD を何枚か持っていく」という時、持っていくのは、 2,3 枚でしょうか? 4,5 枚でしょうか?

比較的少なくて量のはっきりしない数を表すフランス語の表現に、 plusieurs と quelques があります。日本語訳では「いくつかの」となりますが、この日本語の曖昧さゆえ、フランス語のこの二つの表現がいったいどのくらいの量を表しているのか、分かりにくいようです。まず定義から見てみましょう。

Plusieurs : c'est un adjectif et un pronom indéfini pluriel des deux genres (par conséquent, il est équivalent dans certains cas, à un article). Il signifie " plus d'un, un certain nombre".
(両性に使用できる形容詞および不定代名詞(したがって場合によって、冠詞と等値である)。意味は「ひとつ以上、いくらかの」)

Quelques : c'est un adjectif indéfini. Au singulier, il exprime une quantité, une durée, une valeur, un degré indéterminés généralement faibles. On utilise le singulier pour des quantités ou autres noms qui ne sont pas comptables. Au pluriel, il indique un petit nombre, une petite quantité. On utilise le pluriel pour les noms comptables, les personnes et les choses.
(不定形容詞。単数では、不定の量、期間、値、程度を表す。複数では、少ない数、少ない量を表す。複数形は加算名詞、人、モノに使用する。)

では実例をもとに plusieurs と quelques の違いを見てみましょう。

     (1) Il y a quelques personnes dans la salle des professeurs.
     (2) Il y a plusieurs personnes dans la salle des professeurs.

例文 (1) では、 quelques は 2 から 5 人くらいの人を表しています。例文 (2) では、 plusieurs は部屋の中に、確実に 5 人以上の人がいることを表しています。

4.「昼食を食べる」とフランス語では何故言えないか?

作文や会話で「私は昼飯を食べる」という日本語に引っ張られて、 *je mange mon déjeuner という言ってしてしまう日本人がいます。これはフランス語としては間違いで、 フランス語では manger の後には、具体的に食べられるものの名前が必ず来ます。 Au petit déjeuner, je mange une tartine et je bois un verre de jus de fruits. (昼食に、私はタルティーヌを食べ、果実ジュースを一杯飲みます。) déjeuner (昼食)は、フランス人にとって、具体的な食べ物ではないから、どうしても déjeuner を使いたい場合は動詞としては manger でなく prendre を使います (je prends mon déjeuner.) 。なお、上の文の manger を prendre で置き換えることもできます。つまり Au petit déjeuner, je prends une tartine et un verre de jus de fruits. とも言えるわけです。