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6月3日(金曜日)髙岡尚子先生講演会


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男装の女性作家ジョルジュ・サンド─その生涯と現代性─
6月3日(金曜日)、外大701教室にて、髙岡尚子氏をお迎えし、フランス語学科主催・ワールドリベラルアーツセンター共催による講演会を開催しました。サンドの没後140周年にふさわしく約200名もの参加者が、熱心に講演内容に聴き入っていました。

 髙岡氏は、19世紀フランスを代表する女性作家ジョルジュ・サンド(George SAND,1804-1876)の専門家で、19世紀フランス文学、文学とジェンダーの問題を専門領域として活躍中の研究者です。主著に『200年目のジョルジュ・サンド』(2012年)、『摩擦する「母」と「女」の物語』(2014年)などがあります。なお、後者は、6-7月の学科推薦図書コーナー(大学図書館)に配架されています。
 
 ところで、19世紀フランスの一女性作家の生涯に現代性を見出すことは、果たして可能なのでしょうか? そもそもサンドの精力的な作家活動自体、現在推奨されている「女性の活躍」を意味するものです。また、作家活動のみならず、男装は「ジェンダー越境」なのです。一方、母親としての子育てと教育、祖母の看取りもこの時代に限った特殊な経験ではありません。更に、彼女が男女を問わず実践した「若手芸術家の支援」も今日的な意味を持っていると言えます。この他、彼女の名声と芸術家達との交流は、生活の拠点であった片田舎のノアンの村を有名にし、「地域活性化」に繋がってきたそうです。髙岡氏は講演の冒頭、こうした点を紹介しながら、サンドの中に十分現代性が存在することを指摘されました。

 この後、作家「ジョルジュ・サンド」が誕生するまでの経緯、彼女の男装のきっかけとペンネームの問題、当時の絵画が物語るサンドとミュッセ、ドラクロワ、ショパン、リスト、バルザックといった当代一級の芸術家達との交流に話が及びました。

 サンドは、デュドゥヴァン男爵と結婚して2児を授かりますが、何かと問題の多い夫との不和が決定的になり別居に至りました。当時は離婚が認められていなかったのです。この時の夫婦間の取り決めで、1年の半分をフランスの出版文化の中心地パリで、残り半分を子供達のいるノアンで過ごすようになりました。しかし、パリでの生活費が足りず、男爵夫人に見合う服装を調達できないため男装を始めました。この服装が、当時の女性には許されていなかった自由な行動を可能にしてくれたのです。

 1831年、作家のジュール・サンドーと共同で小説『ローズとブランシュ』を出版しましたが、この時は彼の名前に由来するJ. Sandというペンネームが採用されました。本書の成功から1年後、初めて自分だけで完成した小説『アンディアナ』でG. Sandというペンネームを使用し、やがてGeorgesをGeorgeに変え(サンドの英国びいきが原因とする説もあります)、この形が定着したということです。

 彼女の真の意味での処女作は大成功を収めましたが、著者が女性であることが知られると一転して厳しい批判が相次ぎました。当時「作品を書く」という行為自体が、男性の領域でした。しかし、彼女はある書簡の中で、「パリでデュデゥヴァン夫人は死にました。ジョルジュ・サンドは逞しい男子として通っています」と言っています。度重なる恋愛スキャンダルや「ジェンダー越境」へのバッシングにも挫けることなく、作品を世に送り続け、職業作家として自立していたサンドには感嘆の念を禁じ得ません。

 講演の終盤で、髙岡氏は、サンドの主要作品の紹介に続き、日本で最も親しまれてきた田園小説『愛の妖精』(1849年)を例に、「女性の役割」、「男らしさとは何か」、「嫌悪と共生のバランス」などといった点に注目することで、作品の持つ現代性の読み解きが可能になることも説明されました。この小説は、6-7月の学科推薦図書コーナーにもあります。こうした点を意識しながら読んでみると、面白い発見があるはずです。

 サンドといえば、日本では、「ショパンの恋人」、「ショパンの庇護者」など、とかくショパンとの関係でしかその名が出て来ないように思われます。そして、サンドに関心の目が向けられるとすれば、それは多くの場合ショパンの生涯と音楽の理解のためなのです。こうした現状を思えば、女性が職業作家として生きることが極めて困難な時代に40年以上もの間作家活動を続けたサンドの生涯について、多様な観点からお話しいただけたことは大変意義深いと思います。
サンドは政治活動にも積極的に参加しており、まだまだ語るべきことは尽きない感があります。講演者が、配布資料に参考文献一覧を添える配慮をされたのもそのためでありましょう。本講演が、ジョルジュ・サンドの世界を知り、その現代的なメッセージを酌み取る切っ掛けになれば幸いです。
 
 最後に、講演を快くお引き受けくださった高岡氏と講演実施に向けてご支援いただいた関係者の皆様に厚くお礼を申し上げたいと思います。 

以下のボタンから講演会ポスターがダウンロードできます。

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