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アントワーヌ・ヴォロディーヌ氏講演会


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アントワーヌ・ヴォロディーヌ氏

外大フランス語学科主催、WLAC共催による講演会が、フランス人小説家、アントワーヌ・ヴォロディーヌ氏をお迎えして、5月18日(木)午後3時より、外大7号館701教室で行われました。
 アントワーヌ・ヴォロディーヌ氏は、ヌーヴォー・ロマン以降のフランス現代小説の中で独自の存在感を発揮する重要作家の一人で、フランスでは既に40冊以上の小説を発表しています。興味深いのはこのアントワーヌ・ヴォロディーヌという名は、氏の4つの筆名の中の一つで、他にエリ・クロナウアー、マヌエル・ドラエジェール、リュツ・バスマンなどの筆名でも小説を発表していることです。彼はフェルナンド・ペソアのようにいくつかのペルソナを使い分けているのです。
 日本語訳はすでに3冊、『アルト・ソロ』(塚本昌則訳・白水社)、『無力な天使たち』(門間広明、山本純訳・国書刊行会)、『骨の山』(濱野耕一郎訳・水声社)があり、全てアントワーヌ・ヴォロディーヌ名義で刊行されています。
 ヴォロディーヌ氏は、フランスのリヨン近郊で1950年に生まれ、大学でロシア語とフランス文学を学んだ後、オルレアンでロシア語教師となりました。平行して作品を書き始め、まず『ストーカー』などの小説で知られるストルガツキー兄弟などのロシア小説の翻訳からキャリアをスタートさせ、1985年に『ジョリアン・ミュルグラーヴ比較伝』で小説家デビューを果たしました。2014年には小説『放射する終着駅』(未邦訳)がフランスでもっと権威あるメディシス賞を受賞し、一躍時の人となりましたが、その時点ですでに30年近くのキャリアをお持ちだったのです。
本学での講演会のタイトルは『ポスト・エグゾティスムにおける物語の転覆』で、自らの文学的立場『ポスト・エグゾティスム』の説明から、なぜいつも自分の小説の中では、出来事が直接明示されず「転覆」されて表現されるのかについて、文学的かつ政治的に高度な内容を、分かりやすく丁寧にお話いただきました。
 通訳を使用したフランス語での講演会で、平日午後3時からという開始時間にもかかわらず、134人の方々の参加がありました。学生は1年生から、4年生まで、一般の方々、教職員など予想外に多くの方々の参加をいただきました。アンケートも大変肯定的なものでした。
 本年2017年の1月から6月まで、ヴォロディーヌ氏は、べタンクール財団の援助でフランス政府のアーティスト・イン・レジデンス施設、京都のヴィラ九条山に滞在し、作品の執筆とリサーチをしています。日本での長期滞在は初めてということですが、昔から日本文化になみなみならぬ興味を持ち、黒沢、溝口、小津、小林などの日本映画に親しみ、神道や武道についても深く教養を身につけた氏は、長年の趣味で剣道と居合道をなさるそうで、ご自宅には日本の鎧が飾られているということでした。
 講演会後の雑談で、ヴォロディーヌ氏は、最新作の『放射する終着駅』の日本語訳計画がまだ進んでいないことを非常に残念がっておられました。タルコフスキーの『ストーカー』を思わせる近未来のシベリアを舞台にした大作で、これまでの氏の文学活動の総決算であり、一刻も早い邦訳が望まれます。
 6月4日には東京大学(駒場)での公開討論会、その後、氏の『バルドか非バルドか』(未邦訳)が最良のフランス小説の英訳に与えられるアルベルチーヌ賞を受賞し、その授賞式のために、ニューヨークへ出かけるという多忙の中、貴重な時間をさいて、本学まで足をお運びいただきました。氏は、死後49日で転生するというチベット仏教の「バルド(中有)」の数を重視し、49作品を書く事が目的だそうですが、それは今後数年で到達されそうです。その後の「ポスト・ポスト・エグゾティスム」の文学がどのようなものになるのか、はっきりとは教えてくださいませんでしたが、半年間の日本滞在が重要な役割を果たすことは確実なのではないでしょうか。

(文責:伊藤達也)